教員の意見を聞いてみよう(かけ算の順序について)2

小学校笑いぐさ日記(現役小学校教師) 
                                

掛け算の順序のこと
 「6×8は正解でも8×6はバッテン?あるいは算数のガラパゴス性」。はいはいガラパゴスガラパゴス。いえ、主張自体には基本的に賛成なんですが。これも定期的にネットで話題にのぼるよな …。そろそろ2年生が九九を覚えてテストを受ける時期なので。このあたりの事情は以前も書きましたが、

・個人的には、「2×5=5×2」で良いと思う。
・学習指導要領には、特に順序に関する記述はない。
・しかし、教科書(文科省検定済み)には、掛け算は「単位あたりの量×何個分」である、 と明記してある。(つまり、文章題においては交換法則は適用できない!)という状況に あります。
 (教科書の記述については、「教科書会社のトップ「東京書籍」に言わせると、「5×3≠3×5」らしい。」掛け算の「順序」が問題になるのは、文章題の時だけです。
 
 たとえ導入において「5×3」→「5が3つ(5+5+5)」と教えるにしても、これはあくまで子どもの理解を助けるための恣意的な解説……いわば漢文訓読みたいな技術であって、数学世界の決まりではありません。

 ちなみに今年も私は担任を持ってなくて、あちこちのクラスで主に算数を教える感じです。算数はつまづく子が多いので、一つのクラスを半分に分けて、担任と私で半分ずつ丁寧に教えるわけです。で、テストの採点は私がしてます。

 

 さて。今年度、教科書が新しくなったんですが、確認したらやっぱり「5つの皿にりんごが2こずつ乗っています」の時は、式は「2×5」でなきゃならない、というのが東京書籍の立場みたいです。
 掛け算を最初に教える時に、「おなじものが何こかずつあるときは、“かけざん”というものをつかうよ」「2こずつ、5つあるときは、“2×5”というしきになるよ」「“ひとつあたりの数”דなんこぶん”ということだよ」という形で導入します。

 

 まあ、最初の理解としてはそれでいいと思うんですが、教科書ではそれをずーっとひきずった挙げ句、それが「規則」になってしまうんです。そして、わざわざ「5つのお皿に2こずつ」みたいな“引っかけ問題”まで出題されるという。絶対おかしいと思うんだけどな。 ちなみに、長方形の面積を求める公式(4年)は、「たて×横」でも「横×たて」でも、どちらでもいいことになってました。

 

 指導書には、順序にこだわる児童がいるので、どちらでもよいことをきちんとおさえるように、というありがたい注意書きまでしてありました。どの口でそれを言うかな。

 さて、2年生のテスト。九九を学習する時には、まあ、一応教科書に沿って、「2×5」というのは、「2が5こある」ってことなんだよ、とは繰り返し教えました。

 
 で、単元途中のテスト(というか、2〜5の段までで一つの単元なんです)では、悩んだんですが、順序が「逆」でも、正答扱いにしました。で、赤ペンで「順番は逆にしてください」という旨のコメントを付ける形に。めんどくさかった。大勢いたから。

 

 ところが、その次のテスト(6〜9の段および1の段)では、採点前に担任の先生から、「順番が逆の時は誤答扱いにしてください」と言われてしまいました。 … 仕方ないね。
(でも、式は誤答扱いでも答えは正答にしましたよ?)納得いかない人は多いでしょうし、私も納得いかないんですが …。

 

 義務教育において、教師が「教科書にはこう書いてあるけど、これは教科書の間違いで、本当はこうなんだよ」と教えるのが、どの程度認められるのかなあ、と思います。
 唯々諾々と検定教科書の記述をなぞるのもアレかとは思いますが、「教科書に載っていない真実」と称するものが大体当人の独り善がりに過ぎないというのもまた事実で …。

 ともあれ。この問題に関して、「小学校教師にはおかしなのが多い」という風に結論づける方が多いようなんですが、教師の独善によってそういう変なことが起きているのではなく、むしろ逆なのだよ、と抗弁させてください。

 

余談。2年生の指導書「研究編」から、交換法則の扱いについて。


 乗法の交換法則は、ふつう6×4=4×6のような等式と関連づけて指導するが、上記のような式は被乗数と乗数との実質的な違いを無視することによって成立する。
 ところが、児童はこれまでに被乗数と乗数の使い分けについてかなり厳しく考えてきたといってよい。それゆえ、不用意に式を導入して形式的な扱いを急ぐと、児童が混乱を起こす恐れも出てくる。


※「児童は……使い分けについてかなり厳しく考えてきたといってよい」……って、他人事みたいだ。だってそれは自社の教科書で、しつこく書いたからなんじゃないの……?

 

教員のツイートから

 

☆ このことは教師も解っています。しかし教科書や指導書は未だにこだわって書いてあります。テストも丸にはなりません。メディアで、権威のある方が発言しても教科書やテストは一向に変わりません。本当に【何がいかんのだ】と思うなら、教科書教材会社に直接言って変えてほしいです。

 

☆ 私が高校生にとったアンケートでも、9割以上は掛け算の順番は小学校だけの超ローカルルールであり、それ以外では通用しないことを知っていました。しかし、クラスに2〜3人はそれに捉われてアップデートできない子がいます。

 

☆ これは教科書会社作成の単元テスト、採点したのは担任のY先生。他にも何人かいたようだが、みんな“模範解答”の通りに書き直させられただけ。理由は説明なし。「この問題自体がおかしいのでは?」とT先生に質問したら、「これは、掛算 順序固定から派生している問題で…」と悩んでいた。T先生は「自分はこの教材は使いたくないけど、大きな力が働いていて、自分にはどうすることもできない。

    子供達には我慢してもらう代わりに、学力をつけることでお返ししたい。保護者にもご容赦願いたい」と言った。(この問題に関して投稿者や、閲覧者は「問題の意図がわからない」とコメントしている。)

この問題に対するネットの意見


○21と7を見て、さんしちにじゅういちを思い浮かべるか、しちさんにじゅういちを思い浮かべるかは問題を解く側の勝手である。よって、×にした先生が間違っている。


○計算式見てすぐに答えがわかった子は負け。 おかしいでしょ?

 

○割り算の手順を問う問題ということですね。答え(3)を聞いているのではなく、答えを探す手立て(7×1、7×2....)を聞いてますから。ですから採点は正しいですが、敢えて問う必要がある設問とは思えません。 

 

※わり算をするには、かけ算の3×7=21が頭にすぐに浮かぶことが大事です。わり算の答えを、九九の中から探すときに、一方向から、しかも順番に探す習慣をつけています。 例えば、□×△=18の答えがすぐに複数浮かばないと、中学校の因数分解で、困るのは目に見えています。九九の表全体から双方向であてはまる数をピンポイントで、「ここ」と見つけられるようにならないといけないわけです。そこまでできて、はじめて九九が使い物になったということになります。


  わり算の商がなかなか浮かばない原因は。双方向であてはまる数を探せないからです。しかも何の段かを考えた後、7×1から順に探していくので非合理で使い物になりません。
  

☆ 私としては,教員に責任はないと思います。数学が得意な人ばかりではないからです。私だったら,逆に社会や国語は苦手なので,教科書におかしな事が書いてあったとしても,それを信じるしかないですからね。責任があるとすれば,日本の教育出版社や,文部科学省なのだと思います。

 

☆ 算数で、文章の意味を読みとることが大事だと言いながら、同じ言葉の言い回しの問題ばかり解き、読みとるポイントは、内容ではありません。なんと、言葉遣いで決めていくという本末転倒の指導。教科書の指導方法がそうなっているので、教師の責任ではありません。

 

☆ ただし、私はあくまで「こういう指導方略もありうる」と判断を保留している。理由は,この小学校における細かな配慮は,保護者や早期教育を受けた児童にとって混乱を招くことと,こんな教わり方をしたということを高校や大学の時には忘れてしまうだろうということである。